『ティーンスピリット』を彩る音楽たち
『ラ・ラ・ランド』のチーム(製作:フレッド・バーガー、エグゼクティブ音楽プロデューサー/ 作曲:マリウス・デ・ヴリーズ)が手がけた、というので既に保証付き。音楽への拘り、音楽への愛情が随所に感じられるに違いない。とはいえ、『ラ・ラ・ランド』がハリウッドを舞台にミュージカル・ナンバーで綴られたのに対して、こちらはイギリスのワイト島が舞台であり、ヒット・チャートを賑わすポップ・ソングが中心に据えられている。如何にもティーンエイジャーの女の子が夢中になりそうなポップ・ソングと言えるだろうか。監督のマックス・ミンゲラは、脚本を書き上げた時点で、既に楽曲を決めていたそうだが、主人公ヴァイオレットのその時々の心情と見事にマッチする歌詞や曲調のナンバーが選ばれている。
オープニングに流れるグライムスの「ジェネシス」で、映画のトーンは決定する。カナダ出身のシンガー・ソングライターである彼女の儚くも意思の強さを伺わせる歌声に耳をくすぐられる。この曲をはじめ、メジャー・レイザー&DJスネイクの「リーン・オン feat. ムー」、オービタルの「ハルシオン」など、バックに流れる曲の多くがクラブ系のエレクトロニック・ミュージック。ケイティ・ペリーとカニエ・ウェストの共演で大ヒットした「E.T.」も、エレクトロニックなカヴァー・ヴァージョンで登場する。といったサウンド嗜好は、如何にも音楽プロデューサーのヴリーズらしいと言えるだろうか。ヴリーズは『ラ・ラ・ランド』や『ロミオとジュリエット』『ムーラン・ルージュ』などの映画音楽で知られているが、もっと以前にはビョークやマドンナ、マッシヴ・アタックなど数々の音楽アーティストたちとのレコーディングに参加。作曲/ プロデュース/ プログラミングなどを担ってきた。彼が得意とするエクトロニックな音使いは、本作の全編からも聴こえてくることだろう。だが、もちろん例外もあり、オペラが差し挟まれたり、歌手になった気分で寝室のベッドの上で飛び跳ねるシーンでグウェン・ステファニー率いるノー・ダウトの「ジャスト・ア・ガール」が使われたり、オーディションに臨むシーンで『フラッシュダンス』のテーマ曲が流れるなどの遊び心を覗かせている。

そして一番の聴きどころは、やはりヴァイオレット役のエル・ファニングの歌だ。姉のダコタも『ランナウェイズ』の伝記映画でロック・シンガー役を演じ、自ら歌ったが、彼女も本作で実際にマイクを握っている。声量で圧倒するタイプではないが、少女らしい繊細なニュアンスを瑞々しい歌で表現。地元のバーで歌われるティーガン&サラの「アイ・ワズ・ア・フール」から、アニー・レノックスの「リトル・バード」のカヴァー(オリジナル曲にはヴリーズも関わっていた)まで、曲調の振れ幅は大きいが、常にヴァイオレットらしさを感じさせてくれる。またオーディションのシーンで歌われる3曲(別項を参照)が全て欧州アーティストの楽曲なのも如何にもヴァイオレットが好みそうで、ストーリーにリアリティを与えている。一方で、心情とは裏腹に歌われるのが、オーディション参加者全員による「グッド・タイム」だろう。ヴァイオレットだけが虚ろな表情で、”グッド・タイム”とはまるで掛け離れているのがなんとも皮肉だ。オリジナルは、アウル・シティーとカーリー・レイ・ジェプセンによるデュエット曲。後者は、本作のオリジナル・ソング「ワイルドフラワーズ」のソングライティングも手がけている。カナダ出身のシンガー・ソングライターであるジェプセンは「コール・ミー・メイビー」などのヒットで日本でもすっかりお馴染み。オリジナル曲「ワイルドフラワーズ」は、テイラー・スウィフトやロードの共作者/ プロデューサーであるジャック・アントノフ(ブリーチャーズ、FUN. のメンバーでも)らと彼女が共作。アントノフがプロデュースを手がけている。
これらファニングの歌った楽曲をはじめ、映画中で用いられたナンバーの多くはサウンドトラック『Teen Spirit (Original Motion Picture Soundtrack)』に収録。女子に愛されそうな、ちょっと通好みだけれど、キラキラしたポップ・ミュージックが詰まっている。ティーンにとっては繰り返し聴きたくなるバイブルのようなアルバムだ。と同時にティーン卒業生にとっては、耳を傾けるだけでティーン時代のトキメキやハートを取り戻せる嬉しい楽曲集ではないだろうか。
オーディション楽曲解説
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「ダンシング・オン・マイ・オウン」
(1回目のパフォーマンス楽曲)
スウェーデン出身のエレクトロ・ポップ・シンガー、ロビンによる2010年のヒット曲。本国で1位を記録した他、イギリスでもトップ10入り。アメリカではグラミー賞の最優秀ダンス・レコーディング部門の候補に挙がった。”1人で踊り続ける”と歌われる、孤独なダンス・チューンとして人気を博し、TVドラマ『GIRLS/ ガールズ』などで用いられて話題を呼んだ。
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「ライツ」
(2回目のパフォーマンス楽曲)
イギリス人シンガーのエリー・ゴールディングによる2011年のヒット曲。本国のみならずアメリカでも大ヒット(全米2位)。現在の世界的ポップ・スターの地位を手に入れるきっかけとなった曲でもあり、この曲以降は、クラブ寄りのポップ・サウンドへとシフト。彼女の音楽性にも大きな影響を及ぼした。
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「ドント・キル・マイ・ヴァイブ」
(3回目のパフォーマンス楽曲)
ノルウェー出身のシンガー・ソングライター、シグリッドによる2017年のヒット曲。後に発表された「ストレンジャーズ」で世界的ヒットを手にするが、こちらがデビュー曲であり、彼女の出発点。この曲を歌った時のヴァイオレットの心情とも重なっている。ヴァイオレットが着用していた赤いトラックスーツは、シグリッドが同曲のミュージック・ヴィデオの中で着ていたのとソックリという細かい拘りも。
About the Soundtrack
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Featuring Elle Fanning
performing music by
Robyn
Ellie Goulding
Tegan & Sara
Annie Lennox
Orbital
Sigrid
Carly Rae Jepsen & Jack Antonoff
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Additional music by
Ariana Grande
Katy Perry
Grimes
The Undertones
Aqua
Alice Deejay
Whigfield
Major Lazer
No Doubt